シェアハウスで暮らす2人の子を持つ女性ルビーの日常を描く連載エッセイです。
(舞台設定)
主人公:ルビー(48歳女性)2人の子ども(26歳と18歳)を持つ派遣社員。住まいはシェアハウス。
シェアハウス:4LDK(2階建ての一軒家)。駅から徒歩10分。自室はドミトリー8畳和室。同居人:フリーター(32歳男性)・契約社員(26歳男性)・イラストレーター(23歳男性)・派遣社員(30歳女性)
▼目次
1.みんなただいま、簡単イタリアン晩ご飯
最寄り駅から徒歩10分、築35年の4LDKの一戸建て。
古い木製のドアを開け
「ただいま」
シーーーーーーーーーン
電気はついてるし。鍵も開いてる。
玄関には無数の靴がある。
誰もいないか~
リビングに入ってソファーに座って、一息ついた。
「今日は散らかってませんね。疲れて帰って、散らかってると萎えるよね~」と大きなひとりごとを言いながら、冷蔵庫にビールを取りに行く。
「まだあった。良かった」350缶を半分までぐいぐい飲む。
キッチンに置きっぱなしで部屋へと向かう。荷物を片付けて着替えをする。
ガタガタガタ。バタン!玄関から大きな音がした。
「ただいま~」
「おかえり~」誰かはわからないけど返事する。それがルール。
メイクをシートで落としながらリビングへ行くと若い男が座ってた。
ここはシェアハウス。
住人は現在5人だけど、ほぼ毎日住人以外が来ている。
「ルビーただいま~、もう飲んでんの?」キッチンの缶ビールを指差して笑った。
「うん(この子誰だっけな~)」
「ルビーはワインも好きでしょう?安いけどビールも買ってきたよ。一緒に飲もう」
「よし乾杯だ~!!!」
「今日さ、ナイター競馬行こうと思って誘ったらパチンコめちゃ勝ってるから行かれないって言うからさ、一人でつまんないからさパチンコ終わるの待って一緒に遊ぼうと思ったんだよね。ルビーいて良かった」
この子はタツの友だちか。先週も遊びに来てたか。たくさんの人が来るから忘れちゃうよな。
「私は夕飯を食べる!坊やはどうすんだい?」一応聞いてあげる。
「もちろん食べるよ」ですよね。
シェアハウスは思ってなくても、社交辞令でも、声をかけ大事かなあって思う。
自分の分しかないときはあなたの分はないのです。とお伝えするときもある。それでも食べたい子には分けちゃうよね。
持ちつ持たれつなのかな、自分所有の食材で食事を提供したり、提供された人はお酒をくれたり、お土産をくれたりして成り立っているって納得している。
なかには、「自分の物は自分のものです!」って人もいるけれど、それも正解だと思う。
よく知らない男子と談笑の中、持参されたワイン開栓のタイミングで調理スタート!
ナスを切って塩を振り、アルミ箔にのせて、ケチャップとチーズをかけて、一人分ずつ包む。
フライパンに入れて蓋をして、弱火で15分で出来上がり。
油揚げをスティック状に切り、耐熱皿にクッキングペーパーを敷き、油揚げを重ならないように並べてレンジで3分ほど加熱、カリカリになったら、塩とドライバジルをかけて出来上がり。
戻しておいた切り干し大根の水気を絞り、フライパンにオリーブオイル、すりおろしにんにく、唐辛子の輪切りを入れて、弱火にかけて、泡がててきたら冷凍カットベーコンと切り干し大根を混ぜながら中火で炒めて、出来上がり。
じゃがいも2個を洗って6等分くらいに切る。
ポリ袋に入れて封をしないで3分程レンジでチン。
耐熱皿にご飯と冷凍カットベーコンとケチャップ塩こしょうを入れて混ぜ合わせる。
じゃがいものポリ袋に塩こしょうとマヨネーズを入れて混ぜながらじゃがいもを潰す。
ご飯の入った耐熱皿にじゃがいもを乗せて整えたらパン粉を振りかけて、オーブントースターに入れて焼き目がついたら出来上がり。
テーブルには、
ナスのイタリアンホイル焼き
油揚げチップス
切り干し大根のアーリオオーリオ
スコップアランチーニ
「ただいまぁ。腹へった。いえーーーい。勝者の帰宅ですよ!」
タツが帰ってきた。
「おかえりぃ」
「めっちゃ勝ったから、3人で居酒屋行って盛り上がろうぜ!!!」
「手ぇ洗ってきなさい。ルビーの作ってくれたご飯で祝杯するよ」
坊やがタツに言った。
三人で爆笑しながら、乾杯してガッツリ食べて飲んで今日もヘベレケ。
翌日、二日酔いの坊やは帰った。
「行ってらっしゃい。またおいで」と言って送り出すのもルール。
2.ホイミ君
ゆっくり昼に起きてリビングに行くと、ホイミ君が仕事していた。
「おはよう。コーヒー入れるけどいかが?」
「おはようございます。もう今日は午前中にカフェイン摂ったのでやめておきます。ありがとう」
ホイミ君は多分ハーフの23歳で、会社を辞めてやりたかったイラストの仕事をしている。
何を描いているかよく知らないけど、すごいスキルだなあって感心する。
洗濯物を回している間、ソファーでゴロゴロしながらコーヒーを飲む。
「こないだ東ティモールのオーガニックコーヒー買ったんですよ。結構深入りで濃いめで美味しかったです。フェアトレードだし、自分にご褒美で気分良いんです」
珍しいなあ。普段は無口なホイミ君がたくさんお話してくれる。
「駅前の西友前に出してるコーヒーのキッチンカー知ってる?最近よく出ててさ。当日分だけ直焙煎するんだって。自家焙煎機すごいよね」
「知りませんでしたね。今度一緒に行きますかね。」
どうしたホイミ君?誰かと出かけるとか嫌いなのかと思っていた。
「うんうん!行こうねー」
コーヒー飲み終えて、洗濯物を干しに行った。
共有スペースのバルコニーは6畳ほどあって広い。1/3屋根はかかっているけど、どかーんと空が見えて晴れた日は最高。
「良いお天気~白ワイン飲みたい!!」
サクサクと洗濯物を干して降りていくと、ホイミ君が「ルビーさん。白ワインどうぞ」
神か?いや。私の在庫のワインだね。
「バルコニーで叫んでたから、用意しておきました。僕は飲みませんが」
「ありがとう。つまみのついでにホイミ君にランチをご馳走しますよ」
冷凍庫からトルティーヤ、タコミート、ピザ用チーズを出して。
野菜室のピーマンと使いかけの玉ねぎを発見。
タコミートをレンジで解凍してる間に、ピーマンを輪切りに、玉ねぎは薄切りにしておく。
フライパンにトルティーヤを入れて中火で片面を焼いて裏返したら、ケチャップを塗り広げてタコミート、ピーマン、玉ねぎ、チーズを乗せる。
弱火にし、蓋をしてチーズが溶けたらできあがり。
材料があるかぎり繰り返す。
薄焼きタコピザのできあがり。
冷蔵庫にあるもので簡単にできちゃうの。
材料はお好きにアレンジできますよ。
「美味しかった~ごちそうさまでし」
「片付けやっておきますからゆっくり飲んでてくださいね。ってもうワイン空ですね。もう一本持ってきます」
今日もいい日だ。
3.ともちゃんの化学
時々遊びに来る「ともちゃん」は2年前に退去した子の友だち。
細いけどよく食べるかわい子ちゃん。
フワフワした「女の子~」な雰囲気ですが、家事は大の苦手でちょいちょい失敗しちゃう。
「こんばんわ」
「おかえり」
「ルビーさぁん、聞いてくださいよ!料理のコクはメイラード反応なんですけどね加熱によって糖とアミノ酸などの間で褐色物質の『メラノイジン』などができる反応なんですよ」
この感じ、化学語りをしてくれる。
「でね、コクたっぷりが食べたくて、飴色玉ねぎで満喫しようと炒めてがんばったんですけど~。疲れちゃってね、ちょっと目を離したら全部焦げて、悲しすぎてカップラーメン食べて寝たんです」
「あらあら、かわいそうに。がんばったのに…。よしよし」
ともちゃんは理系女子で、いろいろ詳しいので化学でできる家事には食いついてくれる。
今日もともちゃんは腹ペコちゃんのようで、
「もう飴色玉ねぎの欲望!メイラードなメラノイジンな口になってるから~。食べさせて~」
名前の通り、飴色玉ねぎは飴色になるまで炒める。飴色になるまで炒めるにはかなりの時間を要するので、火加減や目を離したりしようもんなら、せっかく費やした時間を無視して無惨にも焦げてしまいともちゃんのように泣くことになるのである。
「じゃあ~飴色玉ねぎを時短調理で満喫しよう!!!」
玉ねぎ2玉の皮を剥き、薄い櫛形切りにする。
耐熱皿に櫛形切り玉ねぎを入れラップをかけて600wで5分チン。
しんなりした玉ねぎを水分ごとフライパンに入れて強火で炒める。
途中水を足しながら飴色になるまで炒める。
「わー!そうか。先にレンチンすれば時短になるんだね~」
「玉ねぎは櫛形切りにして冷凍しておけばさらに時短になるんだよ。レンチン時間も短くなるね」
で、ここからお料理しますよ。
飴色玉ねぎ、水500ccとブイヨンを鍋に入れて強火にかける。沸騰したら弱火にして、味見。
塩こしょうで味を整えてオニオンスープの出来上がり。
ブロッコリーを切って一口大に切り、レンジでチン。
ボウルに飴色玉ねぎとオリーブオイル、酢、塩、胡椒。を混ぜてドレッシングを作る
ブロッコリーを入れて混ぜて出来上がり。
作り置きしておいたサラダチキンも皮をギュッと焼いて焦げ目をしっかり付けて、飴色玉ねぎを投入して醤油を鍋肌にジューー!
ともちゃんご希望のメイラード反応たっぷりの「こく」料理完成~。
「いただきます!」
「ううううううううん。うん。うん。これ。これなの。求めていた「こく」「メラノイジン」「メイラード反応よ!」
お気に召したようでよかった~。お酒も進むからか…ともちゃんの化学トークが朝まで爆裂するのね。
4.料理は化学だ
時々登場する、化学好きのともちゃん。
今日のともちゃんはすごく不機嫌です。
「ルビーさん!聞いてくださいよ~。この間ね、彼氏がお家に来てね、一緒にご飯食べようと思ってね張り切ったの」
家事全般苦手なともちゃんはがんばったんだね。テイクアウトとか、デリバリーとか利用せずにがんばったんだね…愛だね。
「うんうん。偉かったね。彼氏はめちゃ喜んだでしょ~?」
「全然。彼氏がね、もうさ大丈夫だからさ、良いんだよ。俺が作るがともちゃんが食べたいものを買って食べよう。とか言うんだよ」
推測するとよっぽどの作品ができたのかな・・・。
「少し前に二人で行ったシーフードレストランで食べた海鮮パスタが美味しかったからね、がんばって作ったんだけど。全部カサカサのパサパサだったけどさ。がんばったんだよ」
…彼氏。ある意味優しい。
「許せないでしょ?」
許そうよ。そこは・・・。
「じゃあ、同じ料理やってみようか?」
「やだ。もう作らない」
へそ曲げているともちゃんですが、いつも通りはらぺこちゃんなので、ともちゃんが興味を持ってくれる科学メニューにしましょう。
「作るよ。一緒に作ろう」
冷凍庫のシーフードミックスを塩水の入ったボウルに入れて解凍する。
塩水で解凍するとパサパサしないんですよ(化学の原理だ)。
シーフードミックス150gに対して
- 水…1カップ
- 塩…6g
- 鍋にたっぷりお湯を沸かして3%の塩水を作る。
- パスタを投入して一煮立ちしたら中火にして時間通りに茹で上げる。
「塩水は味を付ける説やコシ(弾力)説などがあるね」
冷凍のガーリックバゲットをオーブンで焼く。
便利な冷凍食品15分程で焼きたて感覚。
ニンニクと鷹の爪をたっぷりのオリーブオイルで弱火で香りが立つまで熱して、水切りしたシーフードミックスを合わせる。
プツプツ泡がでで軽く熱が通ったら、半分をアヒージョ用に。
半分はフライパンにinしてパスタと和えながら炒める。
作ってる途中にワインの1/3飲んじゃうよね。
アーリオオーリオシーフードパスタ
シーフードアヒージョ
ガーリックバゲット
「いただきます~」
ガーリックバゲットとアヒージョはワインが進む。
「パスタモチモチだし、エビもパサパサじゃない!そうか。これも化学なんだね〜」
「そうだよ。ともちゃんは化学者なんだから、お料理上手になるはずよ」
「うん。次はこのレシピでリベンジするんだ」
「おし!がんばれ。飲もう」
ご機嫌戻ったともちゃんは浸透圧について大いに語ってくれました。
「行ってらっしゃい。またおいで」
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